業務効率化のためにツールを導入しても、成果が続かない――そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
「忙しいのに遅い」「会議が多いのに決まらない」「分業しているのに止まる」――それは、個々のスキルや努力ではなく、組織の“構造設計”に課題があるのかもしれません。

本記事ではCIO(最高情報責任者)の視点から、“仕事が早い組織”に共通する5つの設計ポイントを解説します。
スピードは偶然ではなく、戦略的に設計できる。属人性に頼らず、成果が出る組織をつくるヒントがここにあります。


目次

  1. 業務効率化が定着しないのは、現場の問題ではない
  2. 段取り力のある人が、組織の足かせになっていないか?
  3. 会議が多いのに、なぜ物事が決まらないのか?
  4. 即レス文化が、判断する力を奪っている
  5. 分けても進まない原因は、“つなぎ”の欠如にある
  6. まとめ.“早さ”は才能ではなく、構造でつくれる

1.業務効率化が定着しないのは、現場の問題ではない

業務効率化に取り組んでいるはずなのに、成果が出ずにいつの間にか元通り。そんな光景は、多くの組織で繰り返されています。

よくあるパターンはこうです。「ツールを導入して満足」「改善は現場任せ」「変化が見えず、やがてあきらめる」。この悪循環の根本原因は、現場の工夫や努力ではなく、“組織全体の仕組み設計”にあります。

効率化とは、単に作業を速くすることではありません。
誰が・いつ・何を・どう判断し、どこに引き渡すのか。その一連の流れが整っていなければ、どんなに優秀な現場でも限界があります。
「このタスク、実は何のためにやってるんだっけ?」というモヤモヤが広がる組織では、改善の余地すら見出せません。

まず必要なのは、現場任せの“部分最適”ではなく、全体を見渡した“構造の最適化”です。
タスクの棚卸し、成果の再定義、そして判断基準や役割の明確化。これらを経て初めて、改善活動は意味を持ち始めます。

業務効率化が根づかない会社には、仕組み設計が欠けているという共通点があります。
部分ではなく、構造に目を向ける視点が欠かせません。


2.段取り力のある人が、組織の足かせになっていないか?

「◯◯さんがいないと、この仕事は回らない」――そんな言葉が称賛として語られることがあります。

確かに、段取り力に優れた人材が業務を引っ張る場面は多く、彼らの存在が現場を支えているのも事実です。
しかしCIOの視点から見ると、それは「人に最適化された設計」であり、極めて不安定な状態です。

このような組織では、業務の全体像が見えづらく、属人化が進行します。
「誰が何を、どう判断しているのか」が明文化されていないため、担当者の不在ひとつで業務が止まり、引き継ぎも困難になります。

こうした状態では、いくら段取り力のある人がいても、組織全体の“仕事の早さ”は上がりません。

仕事のスピードを仕組みで生むためには、“人に依存しない”構造づくりが必要です。たとえば以下のような対策が有効です。

  • 業務の見える化(誰が何をしているかを把握できる状態に)
  • 判断ルールの明文化(例外処理を減らし、判断基準を共有)
  • 情報共有の型づくり(ツールやタイミングを統一)

「優秀な人が頑張るから大丈夫」ではなく、「誰がやっても進む仕組みを整える」こと。
それこそが、真の“段取り”であり、全体最適を支える設計思想です。


3.会議が多いのに、なぜ物事が決まらないのか?

「会議が多すぎる」「何も決まらない」「終わっても誰も動かない」――このような悩みは、多くの企業に共通しています。
問題の本質は、会議の“回数”ではありません。むしろ、会議の“構造”に目を向ける必要があります。

たとえば、議題や目的が曖昧なまま始まる会議。参加者は「とりあえず出席」し、結論が出ないまま時間だけが過ぎていく。
あるいは、決定すべき人がその場にいないために、議論が“現場の意見交換”で終わってしまう。
さらに、判断に必要な情報が事前に共有されておらず、「では持ち帰って検討します」という展開に。
これでは何度会議を重ねても、前進することはありません。

意思決定の早い組織には、明確な会議設計があります。

  • 議題とゴールの事前共有
  • 決裁ルートの明確化(誰が最終判断者かを明示)
  • 意思決定に必要な情報の事前配布

こうした仕組みが整っていれば、会議は「考える場」ではなく「決める場」へと変わります。
逆に、会議が多いのに決まらない組織は、“決まらない構造”を抱えているのです。


4.即レス文化が、判断する力を奪っている

「すぐに返事をするのがマナー」「常に通知を確認するべき」――そんな“即レス文化”が、職場に根づいていませんか?
一見、反応の早い組織はスピード感があるように見えますが、実はこの文化が仕事の本質的なスピードを損なっているケースは少なくありません。

即レスを重視するあまり、社員は常に“対応”に追われる状態になります。
その結果、優先順位は崩れ、深く考える時間が奪われていきます。

「通知を見る」「返事をする」といった即時対応が目的化し、本来向き合うべき“判断”や“設計”が後回しになるのです。

CIOであればこう考えます。
“速さ”とは反応ではなく、構造によって設計されるべきものだと。

即レス文化から脱却するためには、組織として次のようなルール設計が求められます。

  • 通知のルールを定める(重要な通知のみ受け取る設計)
  • 緊急と通常を分ける(Slackやチャットツールの分類運用)
  • 判断のための「集中時間」を確保する仕組み

即レス自体が悪いわけではありません。
ただし、それが“考える余白”を奪っているなら、それは業務設計の見直しどころです。


5.分けても進まない原因は、“つなぎ”の欠如にある

「役割は分けた。けれど、なぜか止まる。進まない」――そんな状況に心当たりはありませんか?
仕事を早く進めるために分業を取り入れたはずなのに、逆に手戻りが増えたり、依頼が返ってこなかったり。
これは“分け方”ではなく、“つなぎ方”に問題がある状態です。

多くの組織では、役割分担を「個別の責任領域」として設計します。
しかし、それだけでは情報がつながらず、判断の流れが途中で断絶します。

ゴールが共有されていなければ、各自が“自分の役割をこなすだけ”になり、組織としての一体感が失われていきます。

速く動く組織には、“つなぎ”を意識した構造があります。たとえば――

  • 全体像の共有(自分の仕事が全体の中でどう位置づけられるか)
  • 判断ポイントの明確化(次の工程に渡す基準)
  • 情報が流れる仕組み(進捗・課題・決定事項の共有ライン)

“分ける”はスタートライン。
そこから“流れる”ように動かすためには、つなぎの設計が欠かせません。

部分を分けたその先に、“仕事が流れる構造”ができているか?
それこそが、“仕事が早い組織”の鍵なのです。


まとめ.“早さ”は才能ではなく、構造でつくれる

仕事のスピードは、個人のスキルではなく、組織の構造で決まります。
CIOの視点から見ると、“早さ”とは「仕組み化の成熟度」に比例します。

  • 改善が定着しない組織は、構造が整っていない
  • 優秀な人に依存している組織は、仕組みに課題がある
  • 会議や分業が多くても、流れがなければ成果は出ない

「頑張り」ではなく「設計」で仕事が進む。
それが、“仕事が早い組織”の本質です。


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